※辛口あります
高校を舞台にほろ苦さのある青春を描いた『ジャナ研の憂鬱な事件簿』について解説します。
読んでいてもったいないを思う部分かいくつもあり、それも解説に含めました。
あらすじ
海新高校2年生の工藤啓介は、他人との接触をできるだけ断つために、部員が啓介一人しかいないジャーナリズム研究会に属している。中学時代からの親友である大地と良太郎とだけと親交を保ち、余計なトラブルに巻き込まれないように平穏な学園生活を送ろうとしているのだ。ある日、学内でも評判の美人の先輩白鳥真冬と関わり合ってしまったことによって、少しずつ学内の事件やトラブルに巻き込まれていくことになっていく。
高校生活の中で起きるちょっとした事件を次々と解決していくことになっていく啓介。真冬もまた、その完璧さ故に学内でも疎外感を感じていたのだが、啓介たちと触れあうことで少しずつ本来の自分を取り戻していく……。
本作について
この作品は、第11回小学館ライトノベル大賞優秀賞を受賞した酒井田寛太郎さんのデビュー作で、イラストは白身魚さんが担当しています。
『ジャナ研の憂鬱な事件簿』とは、海新高校ジャーナリズム研究会(通称ジャナ研)に所属する工藤啓介という主人公が、学内や学外で起こる様々な事件やトラブルに巻き込まれていく日常系ミステリーです。
工藤啓介は、中学時代にあるトラウマを背負っており、他人との接触を避けるようにしています。しかし、学内でも評判の美人でお嬢様の先輩・白鳥真冬と出会ったことで、彼女の依頼や好奇心で事件に関わっていくことになります。
そんな啓介を支えるのは、中学時代からの親友である大地と良太郎という2人の男子生徒。
彼らはそれぞれ啓介にはない情報網を持ち、啓介の事件解決に協力したり、真冬との仲からかったりします。
米澤穂信作品の影響
本作について触れざるおえない点に、米澤穂信作品の影響が感じられるというものがあります。
啓介のトラウマは中学時代に持ち前の推理力で様々な謎を明らかにした結果、人を傷つけてしまった過去があることです。
これは小市民シリーズの主人公の過去と同じで、現在はトラブルに関わりたがらない点も同様です。
真冬も地元で有名なお嬢様であり、真冬の依頼や興味から啓介が謎を解き明かしていくという流れは古典部シリーズの奉太郎とえるの関係性に近いものでした。
えるには「私、気になります」という台詞があり、この台詞から謎を解き明かす流れになりますが、同じように本作の真冬には「もやもや」という台詞があり、この台詞で啓介が謎に取り組むことになります。
また本作のイラストを担当する白身魚さんが、京都アニメーションで『けいおん!』のキャラデザなどを担当した堀口悠紀子さんの別名義であり、古典部シリーズは1作目の氷菓をタイトルにして京都アニメーション製作でアニメ化しています。
そのことも影響を受けたと感じる一因でした。
『ジャナ研の憂鬱な事件簿』は全4話構成で、それぞれの話に直接の繋がりはありません。
短編をまとめた内容であり、タイトルの憂鬱が表すようにどれもすっきりせず、真冬を真似ると「もやもやする」終わり方をするのですが、特に2話はそれがひどく後味の悪さも含めて完成度の高い内容でした。
ですがかえってその完成度の高さから小市民シリーズや古典部シリーズらしさを感じるというジレンマが出てしまいます。
本来の自分?
真冬は祖父が元官房長官で父が市議会議員というお嬢様で、真冬自身もモデルの仕事をしているというキャラクターです。
本来なら必ずどこかの部活に所属しなければならない海新高校において、モデルの仕事をしているからという理由で特別に無所属を許されているという立場もあり、校内では浮いていました。
友人と呼べる人物もいるのですが、モデルを通して知り合った数人程度です。
真冬は啓介との出会いをきっかけにジャナ研に所属するようになり、そこで自分が好きなお店を紹介するよう記事を書くことしました。
これにより話しかけられることが増えたと地の文にありますが、具体的な描写はありません。
真冬は自分について啓介に「ただのお嬢様ではないかもしれませんよ」と言いますし、私服も太ももなどを露出したものだったり妙なところで行動力を発揮したりと、只のおとなしいお嬢様ではないことは様々な面で描写されています。
ですがあらすじにあるような本当の自分といえるものは出てこないまま終わり、あらすじを知らないままでも2人の関係も真冬の本心もはっきりしないままなので、この1冊だけでは様々な意味ですっきりしない内容でした。
とはいえ
アニメの氷菓を見ただけでも既視感が拭えない内容ではありますが、つまらないわけではなく地の文も読みやすく、展開についても極度に不自然なところはありませんでした。
啓介が格闘技の修斗をやっており、アマチュア選手権に出場するというのは新鮮でしたし、この試合が軸になる話もあります。
『○○みたいなラノベ』の一言では片づけられない内容なので、『アニメの氷菓みたいな話』のような評価が終わってしまうのはもったいないラノベでした。
余談
本作はアニメ化やコミカライズはないものの、ガガガ文庫がオーディオブックに参入した際に配信された最初の10作品のうちの1つです。
『ジャナ研の憂鬱な事件簿』は全5作で、作者の酒井田寛太郎さんは他にハヤカワ文庫でも『放課後の嘘つきたち 』という小説を手掛けています。
また白身魚さんがガガガ文庫でイラストを担当したのは本作が初めてではなく、過去に『赤鬼はもう泣かない』という作品のイラストも担当していました。
最近のラノベだと堀口悠紀子さん名義で電撃文庫から出た『デモンズ・クレスト』のイラストを担当。
こちらの作者はSAOなどで有名な川原礫さんで、1巻の発売時にイラストを投稿しています。
そして本日『デモンズ・クレスト』一巻発売です!😃
よろしくお願いいたします✨ pic.twitter.com/JXflFXsDOO— 白身魚 (@dochibibi) 2022年11月10日
この2人は以前SAOのアニメ放送時にあったエンドカードの1つを白身魚さんが手掛けていたという縁があります。
#14「世界の終焉」のエンドカード公開。今回は白身魚さんに描いていただきました。来週もお楽しみに。また、キーワードキャンペーンもお忘れなく。https://t.co/U0p7I7onWy #sao_anime pic.twitter.com/nbwIUKr0bJ
— アニメ ソードアート・オンライン 公式 (@sao_anime) 2016年10月8日
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