SF色は強いものの気軽に読めるショートショート集である本作について解説します。
オチも含めて過不足なく綺麗に終わる50近いエピソードのうち、1つだけネタバレがあるのでお気を付けください。
あらすじ
古橋秀之×矢吹健太朗のタッグで贈る「すこしふしぎ」な物語集。
あなたが眠りにつくまでに「彼女」が聞かせてくれるのは、たった5分間であなたを虜にする、「すこしふしぎ」な驚き、恐怖、感動のストーリー。古橋秀之が紡ぐ珠玉の物語を、矢吹健太朗の美麗絵が彩る、驚異のショートショート集。
作者について
作者の古橋秀之さんは電撃文庫でデビューした人物ですが、2010年以降は作家集団『GoRA』の一人としてオリジナルアニメーション企画『K』への参加。
『僕のヒーローアカデミア』のスピンオフコミック『ヴィジランテ –僕のヒーローアカデミア ILLEGALS- 』の漫画原作など、小説以外での活動が目立っています。
最近の作品だとアニメでは『AYAKA -あやか-』、漫画だと『スパイダーマン:オクトパスガール』を挙げることができます。
またデビュー作の『ブラックロッド』は続編の『ブラッドジャケット』や、『ブラインドフォーチュン・ビスケット(旧題ブライトライツ・ホーリーランド)』とまとめて再版されています。
本作について
本作は5ページから10ページほどで終わるショートストーリーをまとめたもので、矢吹健太朗さんがイラストを担当しており、ラノベのように合間に挿絵があります。
雑誌『SFJapan』で2005年から2011年まで連載されていた作品で、2018年にJブックスから刊行されました。
作者が集英社とも関わりがあるため、その縁でJブックスから刊行したのだと考えられます。
具体的な内容は不思議な未来のおとぎ話を機械仕掛けの女性(劇中では自動家政婦と呼称)が子供に語り聞かせるというものです。
『百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし』という言葉から始まる様々な物語はSF色が強いものばかりで、求婚者たちの首を刎ねる姫君、生まれる前に戦争に出される赤ん坊兵士など内容は多岐にわたりました。
一例として赤ん坊兵士の物語に触れます
その中から赤ん坊兵士について触れますと、この物語の世界は長期間戦争を続けている複数の国が舞台となります。
兵隊を確保するために徴兵年齢は引き下げられ、やがて赤ん坊を自立制御した戦車に乗せて戦わせるようになったのですがそれも限界に。
そんな世界である国が誕生前徴兵という制度を作り出します。
これは受精卵を人口子宮を兼ねた装甲服にいれてそのまま兵士として使うというものでした。
人口子宮の中の受精卵が成長し人間として意識を持つようになっても、18年間の兵役が終わるまで装甲服から出ることはできません。
このやり方は他国にも広まり、戦死した兵士は流産扱いで死者はいないという状況が出来上がります。
またこの誕生前徴兵は、生まれてくる(兵役を終える)兵士の数を調整するためにも利用されるようになり、出生数を抑えるために危険な作戦に向かわせることもありました。
そんな世界でもうすぐ兵役が終わる2人が物語の主人公で、2人はお互いに兵役が終わった後は何をしたいのかを語り合いつつ、先ほどの危険な作戦に参加します。
戦闘中、装甲服にひびが入り2人のうちの1人の体が露になり、戦闘は休戦状態になります。
というのも人口子宮から体が出ることは生まれることになるため、死者を出さないために戦闘を中止する取り決めがあったからです。
この2人はどちらも自分のことを男性だと思っていましたが、ひびが入ったことで1人は女性であることが明らかになり、やがて2人が結ばれたことを匂わせる終わり方をしました。
悲痛な世界にいるものの、子供に聞かせる物語であるため後味の悪い話にはなりません。
これは『百万光年のちょっと先』全体の特徴で、すれ違いをテーマとして扱った物語や、もの悲しい終わり方をする物語もありますが大体は綺麗に終わります。
この綺麗な物語も単純なハッピーエンドとはいえないものがあり、本作に不思議な魅力を与えます。
この50近い物語は全てに説明不足なものはなく、オチもつけ方も含めて疑問に感じるものがなかったことも本作の長所として挙げられるでしょう。
エピローグも時の流れを感じさせる悲しさはありますが、暖かさのある終わり方でした。
気軽に読めるショートショートとして、お勧めできる1作です。
まとめ
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