特殊な村にやって来た主人公を軸に、ミステリーや伝奇を織り交ぜた本作について、2巻までの内容で解説します。
そのため2巻までの内容のネタバレを含みますのでご注意ください。
あらすじ
両親を突然の事故で亡くした中学生・逢沢文季。親戚に引き取られ暮らすことになった村で彼が体験したのは、二本足で立ち、相撲を取るカエル達との遭遇、林に捨てられたトランク詰めの死体の謎解き、そして、オートバイを片手で軽く持ち上げる不思議な少女・遠泉真夏との日々だった――
『虚構推理』城平京がおくる[青春×神事×ミステリ]、はじまりはじまり。
本作について
本作は2016年に講談社タイガから出た同名小説が原作で、作者は虚構推理や絶園のテンペストの原作を手掛けた城平京先生です。
原作の小説は漫画に比べて牧歌的な絵柄ではあるものの、キャラクターの特徴は近く描かれています。
漫画は2019~2021年の間にマガジンポケットや少年マガジンRで連載され、単行本は計3巻で完結済み。
どちらも講談社であり原作者も同じである虚構推理とのコラボイラストもあります。
本作独自のアカウントはなく、Twitterでの告知は虚構推理のアカウントから行われていました。
本作の特徴
本作は主人公の相沢文季が両親を交通事故で亡くし、親戚の家にお世話になるところから始まります。
文季は相撲好きの両親から相撲の英才教育を受けたものの、自身の小柄な体格では限界があることを悟っていました。
両親が亡くなったことでもう相撲をとる必要はないと考えたいたものの、親戚の住む村が相撲が盛んな村だったためそういうわけにはいかなくなります。
この村の名前は久留木(くるるぎ)村といい、カエルの鳴き声が名前の由来で米の特産地なのですが、この村は様々な面で奇妙な村でした。
久留木村ではカエルの神様が信じられており、村人はカエル様と呼称します。
村人の大半は裕福な農家で、その豊かさは良質な米が育つことに理由があるのですが、相撲が強い家ほど上質な米がとれました。
そのことをカエル様が相撲が好きだからと信じられています。そのため学校の授業でも相撲が行われ、農家の後継ぎ争いも相撲で決めるほど相撲が生活に浸透しています。
そんな村の中学に転校した文季は当初、村の外から来た相撲の強いやつとして警戒の目を向けられるのですが、文季は相撲に関して優れた洞察力の持ち主であるため、アドバイスを求められるようになりました。
そしてそれは人間だけではありません。久留木村では神様として扱われるカエルが二足歩行で歩き、相撲を取っています。
そんなカエル様に文季は相撲を教えるよう頼まれるのでした。
よそ者と共通点
カエル様たちは村の外から新しくやって来た赤いカエル(イチゴヤドクガエル)に相撲で勝てません。
それが文季に教えるよう頼むきっかけになるのですが、この赤いカエルはよそ者という点で文季と共通点があるものの、相撲を教える側になることで周囲に馴染むことができた文季とは対照的に他のカエル様と馴染むことができません。
文季と赤いカエルは対照的ですが、相撲の戦法が同じという点でも共通点があります。
それは自分で自分を否定する様であったため、文季は相撲をカエル様に教えることに最初は乗り気ではありませんでした。
ほんのりラブコメ
カエル様は自分が喋るわけではなく、人間がカエル様の発言を代弁します。
劇中でこの役目を担うのが遠泉真夏で、真夏はカエル様のかんなぎ(巫女のようなもの)という立場で文季と関わるように。
文季がカエル様に相撲を教えるときに通訳のような立ち位置につくのですが、同年代と対等に関わる経験がないからか徐々にラブコメのような雰囲気を醸し出します。
文季が相撲をカエル様に教える場所は真夏の家で、真夏はホット―ケーキを焼いて差し入れにしたりするのですが、文季は特別な反応をしないどころか冷めた反応しかしません。
相撲を教える際に相手役を真夏に頼み、真夏は文季と体が接触するので焦るのですが、文季は動じません。
この2人のギャップにラブコメ感がありました。
死体遺棄事件
文季を中心としたカエル様関係のエピソードと当時に、本作では死体遺棄事件がもう1つの軸として現れます。
それは久留木村の外れの林の中で、死体を詰めたトランクが見つかったというもので、このトランクの中には他にもコバルトヤドクガエルの死骸がありました。
話をカエル様に戻しますが赤いカエルは「自分は捨てられてこの村に来た」と文季に話し、自分以外にも捨てられたカエルがいることにも触れています。
イチゴヤドクガエル(赤いカエル)もコバルトヤドクガエルも外来種であるため、事件と赤いカエルに繋がりが出てきました。
赤いカエルがカエル様のように人間と意思疎通が可能になり、相撲をとるようになった謎も明らかにはなっていません。
また村人には伝えられていないかんなぎの役目も明らかになり、話が終わりに向けて動き出したところで2巻は終わります。
余談
カエルと神事と死体遺棄事件という奇妙な組み合わせの本作ですが、原作者の城平京先生はコミックス1巻の巻末で本作を王道な作品と評しています。
異なった価値観の世界(異郷、異世界、過去の世界、未来の世界)に特別な知識や能力を持つ主人公がやって来て(来訪、転移、転生、召喚、時間移動)、その能力や知識で活躍する。
これがその根拠であり、いわれてみればとなるほどと思えます。
本作は陰鬱な要素もありますがどこかとぼけたカエル様や、一見いかつく見えるもののそれだけではない真夏の存在、妙に冷めた文季などが陰鬱さを緩和し、独特な雰囲気で描かれています。
全3巻で終わるので短くて個性的な漫画を見たいときにオススメです。
また連載終了時に虚構推理のアカウントがコメントとイラストを掲載していました。
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