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消化不良なエピローグ【ラノベ『86―エイティシックス― 』より】

※辛口です。

第23回電撃小説大賞で≪大賞≫を受賞し、電撃文庫から現在8巻まで発売中の『86―エイティシックス― 』。

イラストは『りゅうおうのおしごと!』や『無彩限のファントム・ワールド』、メカニックデザインは『アルドノア・ゼロ』を担当した人物が参加しました。電撃文庫としても力を入れていることが分かる本作について触れていきます。

死者のいない戦場

本作は共和国と帝国の戦争が続く中、共和国の少佐である少女・レーナがエイティシックスの1人である青年・ジンと、知覚同調というものを通して出会うところから始まります。

設定についてかいつまむと物語が始まる9年前、帝国に負け続け国土の半分を失った共和国は銀髪と銀の瞳を持つ白系種以外の人種(劇中では有色種と呼称)から市民権をはく奪し、人間ではないエイティシックスという生物と定義づけ名付け強制収容所に送りました。

その2年後に帝国の無人機に対抗するため、共和国はエイティシックスを搭載したジャガーノート(4本足のロボットのようなもの)を無人機かつ人道的な兵器として投入することを決定します。

共和国はジャガーノート無人機と定義しているので、操縦しているエイティシックスが死のうと死者としてカウントしません。死者のいない戦場というのはこの設定からきています。

このようなハードの設定で物語は始まり、レーナは過去のある出来事からエイティシックスに対して対等に接しようとしますが、相手は虐げられた側でレーナは虐げる側なのでうまくはいきません。

エイティシックスは無理矢理帝国の無人機と戦わされています。一方レーナは戦わせる側なので、終始友情といったものは生まれませんし和解のようなものもありません。

レーナの言動は劇中でも『お人形好きのお姫様』『聖女気取りの偽善者』と否定的に評価され、レーナの友人からもドローンに入れ込むなと冷めた態度をとられます。

表紙が現すように視線も立場も全く違いますがレーナはエイティシックスたちと関わり続け、ある種の信頼関係は生まれる過程が本作の魅力です。

落ち込むようなことがあり知覚同調をためらうことがあっても、レーナは気力をふり絞りジンや同じ部隊のエイティシックスと関わり続けました。

本当の敵

ここからは本格的にネタバレしていきます。

レーナもジンも共和国に所属し帝国の無人機と戦っているのですが、この共和国がひどい有様で帝国は目の前の障害に過ぎず、本当の敵は共和国のように思えてくるほどでした。

国土の半分が奪われたままなのに戦争はエイティシックスに押し付けて平和な日々を過ごし、戦費に充てたエイティシックスたちの資産はとっくに底をつき食料は満足に用意できないまま。

そんな現状を共和国は肯定的に捉えています。

理由は無人機の数が減っていることから戦争の終わりが近いと判断したからで、戦争の目的も帝国に勝利することからエイティシックスたちを死なせることに変わっていました。

戦後エイティシックスへの補償で膨大な金額がかかることと、周辺諸国にエイティシックスの存在が知られた際に国際的な非難を受けると予測したからです。

白系種であり共和国の少佐でもあるレーナは共和国に対して、曖昧ながらも「まさかそこまではやらないだろう」という曖昧な信頼がありました。

それはいくら要請してもジンの部隊の補充が滞ることや、共和国のやり方を肯定しエイティシックスをブタ呼ばわりする母親や、現状を黙認する叔父や友人などを通してだだの思い込みだったことを思い知らされます。

帝国との戦争より共和国に対してレーナとジンがどんな行動を起こすか、読んでいてこちらの方が読んでいて気になってくるのですが2人とも共和国が負けるであろう現状を受け入れ、それでも最後まで戦い続けることを選びました。

それでは共和国はどうなるのかというと、エピローグの10もないページ数で簡単に崩壊とその後が語られるだけです。

散々ヘイトをためてきた共和国はあっさりと帝国に侵略され、一部の白系種とエイティシックスが抵抗を続けるのみ。

隣国の連邦が救援に現れ生き残った人間は救われますが、連邦は共和国が行った非道な行いを知っていました。

劇中ではエイティシックスへの処遇が映像など様々な記録で確認されるようになると、連邦側の共和国の人間を見る目はゴミを見るものと変わらなくなったとあり、その上で最低限の支援が行われたことを無言の断罪と表現しています。

それじゃあレーナの母と叔父と友人はどうなったのかというとまったく描写がありません。

『非人道的な行いを肯定か黙認した白系種は罪の意識を感じることなく死んでいった』というような表現があるだけで、共和国へのヘイトは解消されないままモヤモヤ感のある終わり方をします。

レーナやジンは共和国に反乱すべきだったということではありません。

どうにもならない大きな流れの中で最後まで抗うという話ならそれもありですが、レーナもジンも生き残っているのでそういう終わり方にもならず、かといって散々好き勝手やってきた共和国に一泡吹かせる展開にもなりませんでした。

しかも最後は共和国にはろくに触れられず、連邦に旧共和国軍将校の派遣を求められレーナはそれ応じる所で終わります。

旧共和国や生き残ったエイティシックスと白系種についての描写もありません。

  • ジンがジャガーノートに負担をかける操縦をする描写があるのに、帝国側の整備や補給について考えるキャラクターがおらず地の文でも一部のパーツ以外触れていないこと。
  • 移民を受け入れていた共和国が有色種を人間扱いしない政策をとってから10年ほどで、レーナの母親のような大人ですら有色種のブタ扱いを受け入れること(10年足らずで差別意識は根付くのか、元々有色種への差別意識の強い国なら何故移民を受け入れたのか)。
  • 10年近く戦争を続けているのに国土を少しも取り戻せず、食料も満足に手に入らなくなったのに、エイティシックスを使い潰して平和な生活を維持している現状を多くの白系種が受け入れていること。
    ジャミングで偵察できない地域があるのに、無人機の減少だけで戦争の終わりが近いと共和国が楽観視しすること。
  • エイティシックスを使い潰すことが目的だとしても、エイティシックスがいなくなったら自分たちが戦わなければならないのに、そのことに対する考えが甘いこと。

細かいことも含めて気になる部分はいくつもありました。

決してつまらない話ではなく他のラノベと比べても尖ったものがあり、対等ではないところから一種の信頼関係を築き上げる過程には独特の面白さもあります。

しかし白系種や共和国の非道な行いについては複数のキャラクターを通してしつこいくらい何度も語られるのに、それらのエピソードで溜まった共和国へのヘイトが解消されることなく終わってしまうので消化不良感のある一作でした。

アニメの放送も決まったようですが、終盤の共和国が崩壊するダイジェストがどうなるのか気になります。

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