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高等女学校が舞台の『昭和少女探偵團』

※以前別サイトに書いた記事を移したものです。

魅力的な2人を中心に動くライトなミステリーですが、読んでいて引っ掛かる部分があるのがもったいない1冊でした。

あらすじ

  • 女学校に通う茜とその級友の元に怪文書が届く。
  • 茜の親友に疑惑の目が向けられるも、同じクラスの才女・潮が自分にもアリバイがないと主張をする。
  • 機械いじりが得意な環や潮と協力して怪文書の謎を解決した茜は、2人との繋がりが無くなるのが寂しく、思いつきで探偵団を作る話を持ちかけ探偵団は結成する。

タイトルにあるようにこの作品は昭和6年を舞台で、地の文は茜の視点で進みつつ時折他のキャラクターに視点が変わる形式です。

茜が通う女学校は正式には高等女学校といい、明治時代にできた女子を対象にした中等教育の学校で、教育基本法成立後は高校や現在の女子高に変わりました。この他にも恐慌や戦争といった昭和初期の要素はいくつも出てきます。

本作は全4話で3話と4話は前後編なのですが、この2つは現代の精神病院にあたる脳病院が重要なポジションで登場しました。

扱いの悪い茜

昭和少女探偵團は物語の大半が茜の視点で進むので、茜が主人公であるのですが茜自身はあまりスポットが当たりません。

人気作家の母と売れない詩人の父の間に生まれ、女学校に通えるほどは裕福ですが母親には仕事があり、父親は遊び歩いて家にいないことが多いので一家の家事を担っています。父親はそのことについて女中を雇うことを提案しますが、母の反対により却下されました。

母親は「女中なんてしていたら女はいつまでも日陰者のままだ」という考えで反対したのですが、子供に家事を任せていることについては気にしていません。そのため本人には悪意のないネグレクトのように見えました。

また母親は自分の書いた小説を『金にしかならない』と自虐的に例え、父の方が作家として優れていると考えていますが、この茜の父親は身勝手な人物です。

よく遊び歩くのですがモテるため何人もの女性と仲良くなり、そのことを浮気と自分では捉えつつも、もし妻が自分のように浮気したら隠し持った拳銃で殺して自分も死ぬという考えの持ち主でした。

このように茜は大きなトラブルはないものの、かなり特殊な家庭で育っています。これが物語に影響を与え、茜の出番に繋がるかというとそうはなりません。

上記の父親の独白には何ページも尺を割いていますが、あってもなくても変わらないレベルで今後の展開には影響のないものでした。

茜が潮に探偵団を持ちかけたのは接点がなくなるのは嫌だったからで、その後も探偵団として事件を解決するのですが、茜は巻き込まれる側だったり潮や環をサポートする側です。

茜は他人の心情を理解することに優れた描写がありますが、そのことで事件を解決に導いたりはしません。

縫い物が得意で雑誌を見て服を作ることができ、脳病院が出るエピソードでは潜入しても怪しまれないように看護服も作りましたが、機械いじりが得意な環の方が活躍するので主人公でありながら存在感は薄いです。

強くなる違和感

3~4話では華族の紫と紫に仕える灰田というキャラクターが新たに現れるのですが、灰田には頭に脳みそではなく綿菓子が詰まっているとバカにされ見返す機会はありません。

戦争や恐慌についても潮や紫はそれぞれ公表できないものを抱えていますが、それらは主題ではないため茜の能天気さを強調することになります。

また4話ではそれまでの茜とは全然違う、戦争に対して批判的な地の文がいきなり挟まれるので驚きや意外性より読みづらさを感じました。

このちぐはぐさは3話から強くなります。紫は長男が医者で次男が軍人の家と結婚することが決まっていて次男と許嫁でしたが、長男に変更することを相手方から提案されました。

そのことでプライドが傷ついた紫は、どんな事情があったのか知るため灰田に調べさせ、長男が務める能病院に次男の手がかりがあると考え、少女探偵団の3人への協力を提案。

終盤、紫は次男に対して恋をしていたことが描かれますが、脳病院への潜入する経緯やこの終盤の流れには強引さを感じます。

可愛らしい茜と凛々しい潮が魅力に描かれた表紙にふさわしく、劇中のキャラクターは生き生きとしていましたが、上記の違和感や誰が喋っているのか分からない場面があることも含め、読んでいてもったいないと思う一冊でした。


『謎が解けたら、ごきげんよう』というタイトルの続編もあります。

短編集

『謎が解けたら、ごきげんよう』は全4話で構成されています。これは前作も同じでしたが、今作は各エピソードのつながりが薄く、同じキャラクターが登場する短編集のようでした。

1話では茜が潮の家に訪れ、2話はこの2人が通う女学校で上級生から相談を受けますが、3話は鬼頭刑事という前作に少しだけ登場したキャラクターが主役のエピソードです。

かと思えば4話は茜視点で始まり、茜が攫われるも潮の血縁者が現れて一暴れ。エピローグでは茜が満洲国のニュースを聞き、これからのことを考え込むという終わり方なので前作よりもちぐはぐさを感じる内容でした。

1話は茜が潮の家に忘れ物を届けようと訪れると、そこは茜の住む家とはかけ離れた環境で、茜は断りもせずに家に来たことで潮を傷つけたのではないかと後悔するところから始まります。

長屋の一部屋に母親と一緒に暮らしている潮は、自分が文房具すらまともに買えなくらい貧しいと茜に思われていると誤解し、2人の仲は少しだけぎくしゃくしました。

2話は女学校が舞台で、悩みを抱える上級生が茜に相談に持ちかける始まりです。茜たちが少女探偵団として依頼を受ける最後の話であり、1話と同様に格差に少しだけ触れます。

ただ茜は物売りの子が気にはなっても、だからといって何かをするようなキャラクターではありません。

2話は1話と違った形で貧しい暮らしをする人々が描かれますが、裕福な家に生まれ家柄によるしがらみもなく、今でいうボランティア活動に熱心なわけでもない茜なので、格差や貧しい人々の描写は意味のない伏線になってしまっています。

他にも2話の最後に茜の同級生であり友人の加寿子が『結婚したくないから先生になりたい』と茜に話しました。

加寿子は過去に男性絡みで何かあったような振る舞いをしますが、それらが何なのか明らかになることはなく加寿子はこれ以降登場しません。

茜は物売りの子も加寿子の思わせぶりな発言も深追いしないので、伏線でもなんでもない思わせぶりな要素にしかなりませんでした。

3話はそれまでとはまったく違う、鬼頭刑事が主役のエピソードです。

鬼頭刑事は前作の2話で初登場したキャラクターで、茜とも若干接点はありましたが脇役といっていいキャラクターで、鬼頭刑事の父の死から自身の秘密が判明するエピソードなのですが、それまでとはまるで違う陰鬱とした内容でした。

4話はそんな3話から茜視点に移り、お祭りの見世物小屋で女優として働くことになった母親が、何をしているのか気になった潮が自分だとばれないよう茜に化粧で変装を頼むところから始まります。

茜は紫に連絡したうえで自分や環も含んだ全員で変装して見世物小屋に行くことを決め、変装や見世物小屋に行くことを楽しんでいましたが、事件に巻き込まれて攫われ警察を巻き込んだ大騒ぎになります。

茜の身に危険が迫るエピソードでしたが全体的には明るく、茜たちが変装やお祭りや見世物小屋を楽しんでいる様子が描かれ綺麗に終わるのですが、だからこそエピローグとのギャップに違和感がありました。

探偵団とはいうけれど

前作の最後に探偵団入りした紫ですが、1人だけ違う学校なのもあり出番がありません。

4話では特に見せ場はなく、梅酒を飲んで酔っ払いながら見世物小屋を訪れ、その後ある事件で中止になったショーの再開に茜たちと一緒に協力しますが、それは事件が解決した後です。

本作では4話でしか現れず久しぶりに登場した際も、「名誉職を賜った」と皮肉を言いますが皮肉でも何でもないただの事実になっていました。

環も紫ほどではありませんが出番が減り、自作の発明品を披露することもなくなりピッキングくらいしか活躍する場面がありせん。

また探偵団自体が女学校くらいしか活躍できる場所がないため、相談事も恋の悩みのように限られ活躍するチャンスは減っています。

茜が潮との繋がりを作るために思い付きで始まった探偵団なので、2人の距離が縮まることで探偵団の存在自体が重要ではなくなりました。

前作では探偵団としての集合場所をあらかじめ決めていて、そこに集合するといった場面もありましたが、本作ではそういったものはありません。

エピローグの茜は探偵団の存在に触れず、誰が話しているのか分からない台詞や、いきなり別のキャラクターの視点に変わるところは前作と変わらないので、読後感はスッキリとしたものはなくモヤモヤが残りました。


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