※以前自分のブログに書いた記事を移したものです。
表紙の見た目そのままのヤンデレでラブコメなミステリーでした。
あらすじ
主人公の迅人は探偵ですが腕はいまいち。そんな迅人はうさぎという女子大生にストーキングされています。
迅人に好意を持つうさぎは『迅人も自分のことが好き』だと確信を持っていて、迅人が自分を好きであることとを証明するときにだけ推理力を発揮し、それが事件の解決に繋がります。
女性に弱く事件に巻き込まれやすい体質の迅人は、うさぎの推理に助けられるのでそんなうさぎに強く出ることができません。
レーベルについて
この『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』は新潮文庫nexから刊行しています。
新潮文庫nexは新潮文庫のレーベルの1つで、キャラクターが描かれたイラストを表紙にしていますがラノベとは違い挿絵はありません。
あくまでキャラクターを重視したとっつきやすい文芸といったレーベルで、表紙はキャラクターを前面に押し出した作品が多いこともそれが現れています。
いくつか質問をいただいているので、きっぱりと。新潮文庫nexは、ライトノベルレーベルではありません。「新潮文庫」という単一レーベルの枠組み、同じ売り場、同じ棚で、展開する作品群です! http://t.co/Poc27yHhDT
— 新潮文庫nex (@shinchobunkonex) 2014年6月24日
公式Twitterではレーベルについてこのように書いています。
もたれる主人公
迅人はもたれ体質と名付けた自分の体質に悩んでいます。これは『疑惑や疑いをもたれやすい』というもの。
行く先々で事件が起きて遺体の第一発見者になったり、1人でいるときに事件が起きたのでアリバイを証明できないという状況に追い込まれるのが本作のテンプレ。
迅人は探偵ですが優秀な人物ではなく、ただでさえ疑いをもたれやすい状況で余計に疑われるような発言をしてしまうキャラクターです。
『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』は65ページほどのエピソードを4話収録しているのですが、どのエピソードでも1度は疑いの目を向けられていました。
そのためうんざりさを感じることもあります。何度も疑われてもたれ体質と名づけるほど自覚があるのに、うまく切り抜けられない迅人がそれを強めていました。
このもたれ体質への迅人の言動を受け入れられるかで、この作品が楽しめるかどうかが決まってくるほどです。
お約束やお決まりの展開といってしまえばそれまでですが、迅人は自分自身で身の潔白を証明できず、うさぎに助けられるので迅人に挽回の機会はありません。
迅人が自身の推理で真相にたどり着くこともありますが、そのときはもっと大きな出来事が起きているという有様です。
メタな話になりますがこの小説はうさぎが推理の主役で、迅人が自分のことを好きである根拠を語ることと、迅人のもたれ体質が重なることで事件の解決に繋がる構成になので迅人は1人で解決できません。
推理以外の場面では活躍することもあるのですが、普段のうさぎのストーキングを迷惑に感じつつも強く出れません。
もたれ体質と名付けるほど疑惑を持たれるのに自力で疑いを解消できず、逆に自分で疑猪の目を強める言動のため、そういった部分は印象に残りにくいのです。
ラブコメだけどミステリー
ここまで迅人について否定的なことを多く書きましたが、本作における不満は迅人くらいでミステリーとしてはサクッと読める面白い作品です。
迅人の姉で刑事である弥生も話も早いうちから話に絡んできますし、うさぎとの掛け合いや迅人への態度が話を動かしていきました。
うさぎは勝手に家に探偵事務所に入り込み、弥生にはすでに公認で迅人のことはなんでも知っておきたいというヤンデレなヒロインとして物語を動かします。
うさぎや弥生の言動に引っ掛かるところはないので読んでいてストレスを感じませんし、推理も変に引っ張らずあっさり終わりました。
無関係と思われる事件に繋がりがあったという意外性もありますし、迅人とうさぎの出会いのエピソードを間に挟むことで同じような話が続かないようにもなっています。
推理やトリックの緻密さや人間関係の複雑さよりも、キャラクター間の掛け合いを重視した小説なので気軽に読める1冊でした。
2巻について
2巻も『朝比奈うさぎは報・恋・想で推理する 』というタイトルで発売してます。
こちらでは迅人の高校時代の同級生であり、初恋の女性でもある編菜が話の軸になりました。
エピソードは全6話で、キャバクラで働く編菜と偶然再会するところから始まります。編菜を中心にエピソードは進み、高校時代の出来事に1話丸々使っていました。
ただのこの編菜というキャラクター、迅人をめぐってうさぎと三角関係にもつれるのかと思いきやそうはなりません。
迅人とうさぎの息が合うさまを第三者の視点から見るポジションでした。
迅人は高校時代は好きだった相手に再開したのですが、そのことをチャンスと思ったりもせず、うさぎのことを迷惑がりつつも息が合っていきます。
持たれ体質のため周りから疑われることの多い迅人にとって、身近にいて自分の無罪を疑わない人物の存在はとても貴重。
そこから好意に発展するという展開はおかしなことではありませんが、うさぎへの感情の変化が特に書かれないままうさぎに好意的になっていくのには違和感がありました。
1つ1つのエピソードも一定以上の面白さはありましたが、迅人が疑われやすい体質を自覚しつつも自分1人で行動するのは変わらないため、読んでいてうんざりする部分は変わらずあります。
2巻では最後、迅人はある人物からうさぎと2人組で探偵として活躍していると評価されますが、迅人の方はうさぎとコンビを組んでいると見られていることに対して触れません。
うさぎを公私に渡るパートナーとしてどう見ているかも描かれないので消化不良感がありました。
うさぎに助けられてばかりで最後のエピソードで自分の推理を披露しますが、うさぎに助けられてばかりだったそれまでと変わらず、最後はうさぎに助けられます。
その辺りのことにはあまり触れられずに終わるので、もやもやしたものが残る終わり方でした。
またこの巻では迅人の父親が殺人事件の謎を解いて迅人の疑いを晴らしたり、うさぎが身内について語る場面がありますがそれらはさらっと流されるため、2巻の主軸は編菜のままです。
迅人とうさぎの身内で掘り下げるエピソードがお蔵入りになったのでは?という印象を受ける一冊でした。
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