ガンダム20周年を記念して1999年から2000年にかけて放送した∀ガンダムには、放送に合わせてコミカライズやノベライズもありました。
コミカライズはマガジンZとコミックボンボンで行われ、コミックボンボンでは全2巻でしたがマガジンZからは全5巻が販売。
作者の曽我篤士先生は現在ガンダムエースで連載中の『機動戦士ガンダムSEED ECLIPSE』の作画を担当しています。
巻数の差の影響かダイジェスト色の強かったコミックボンボン版に対し、マガジンZ版はアニメと同じ始まりをしつつも独自の展開が入ってくる内容でした。
そんなマガジンZ版∀ガンダムを取り上げていきます。アニメと比較するためにアニメ版を見ていることが前提の内容となっており、ネタバレもするので避けたい方はご注意ください。
1~2巻
1巻はアニメ2話までの内容を丁寧に再現しつつ、そこからアニメ8話のロランがローラ・ローラとして女装する回までを収録。
ローラ・ローラとして初めて人前に出る場面のコマの書き込みがすごかったです。
キースやフランの出番は少なく、ミリシャとディアナカウンターの小競り合いもあっさりとして描写で、ロランが調査員としてディアナカウンターに接触するエピソードもありません。
ホワイトドールから∀ガンダムが姿を現すコマでは、周囲にカラスと思われる黒い鳥の群れが描かれ不吉さを感じさせるものになっていました。
2巻はコレンが話の軸で、アニメに比べて他人と意思の疎通が可能なキャラクターになっており、フィルに皮肉も言ったことも。
アグリッパの名前を初めて出したのもコレンで、自分を地球に送り込んだ張本人であると付け加えます。
ロランが∀ガンダムでハンマーを使う相手は、アニメだとフィルとポゥの乗るウォドムでしたが、この漫画ではコレンの乗るイーゲルがその相手。
ノックスがコレンの部隊に襲撃され、崩壊するのはアニメと同様ですが、アニメではコレンとの決着に数話使いましたが、本作ではノックスで決着がつきました。
ディアナが銃を片手にコレンを止めようとするエピソードもノックスで起きます。ディアナの発言にショックを受けたコレンの隙をつくかたちでロランはイーゲルを撃破し、これ以降コレンは出てきません。
2巻の大きなエピソードとして、ロランが自分はムーンレイスであることを宣言することが挙げられます。∀ガンダムの手の平の上ですることは変わりませんが、経緯は違いました。
コレン襲撃後のノックスで、キースがムーンレイスであることがバレてリンチを受けているのを目撃したことが、ムーンレイスであることを明かしたきっかけです。
またディアナの発案でディアナとキエルが入れ替わることや、ソシエとキエルの父親の墓参りでディアナがキエルの姿で謝罪の言葉を口にする流れもアニメと同じでした。
その後ディアナの暗殺未遂が起き、ディアナとキエルの2人は入れ替わったまま話が進みますが、本作では暗殺を仕掛けた犯人がテテスであることがはっきりと描かれます。
また2巻にはおまけとして、ノックス・クロニクルが書いたという設定の新聞記事のようなものがありました。
3巻
3巻からは話が大きく変わります。
アニメでは部隊が宇宙に移ってから登場したギンガナムですが、本作ではディアナと画面越しに会話するかたちで登場し、この会話はキエルがディアナのふりをしていることがフィルやミランにバレるきっかけになりました。
正体を知られたキエルは家族を人質にとられ、サンベルト王国樹立を宣言させられ月に送られます(アニメではサンベルト共和国でしたが、本作では王国となっています)。
一方キエルのふりをするディアナはテテスに命を狙われますが、変装したハリーに助けられました。
アニメでは地球人とムーンレイスの間で生まれた人物として、地球帰還作戦の負の側面を体現したキャラクターで、この設定や最後はミドガルムに口封じのため銃で撃たれるのは本作も同じですが、アニメとは違い一言も喋らず淡々と行動します。
その後発掘された宇宙船(ウィルゲム)をめぐる戦いが始まるのですが、このときかつてディアナと出会ったウィル・ゲイムがグエンの祖先であることが明らかになりました。
アニメではウィルとグエンは無関係ですが、本作ではこの2人が血縁関係になったため、アニメで出てきた子孫のウィルは出てきません。
やがてウィルゲムを狙うディアナ・カウンターの戦闘が始まり、ロランは戦いを止めようとします。
ロランは月からの物資が満足に送られず、帰還民が地球人から略奪を行うようになったことや、コレンのような予定されていない戦力が送られてきたことに持ち出し、地球帰還作戦を妨害する人物が月にいることを訴えて停戦を呼びかけますが上手くいきません。
4巻
ディアナが∀ガンダムの手に乗りディアナ・カウンターに停戦を呼び掛けたため、ディアナ・カウンター側に混乱が生じ、実験を握ったフィルがディアナを∀ガンダムもろとも消そうと旗艦ソレイユの主砲で砲撃しましたが、月光蝶の発動により失敗。
フィルもハリーによってソレイユのブリッジごと潰され、ディアナ・カウンターとミリシャの戦いは停戦というかたちで一応の決着がつきます。
この際ディアナとリリが∀ガンダムの手の平の上で握手をするのですが、その光景を見たメシェーは∀ガンダムがただの石像だったころを思い出しました。
その一方月光蝶でソレイユの主砲を防いだ∀ガンダムを見たソシエは複雑な思いを抱きました。
ロランたちはウィルゲムで月に向かうことになるのですが、その前にロランがキースとフランの2人と会話する場面があります。
キースがパン屋として地球に残るのはアニメと同じですが、アニメでは従軍記者として月へ向かったフランは本作では地球に残りました。このときキースに彼氏(ジョゼフ)の猛反対にあったと冷やかされます。
ロランは∀ガンダムという特別な存在によりかかった自分とは違い、パン屋や新聞記者として地球で自立した生活を行う2人をすごいと称賛しますが、2人からは嫌味かとからかわれるエピソードがギャグとして描かれました。
ここだけでなくダンスの修行をするロラン、ドレスを着たキエルをディアナと間違えるポゥ、伝書鳩を羨ましがるロランなど本作はギャグを所々に挟みます。
宇宙に出たウィルゲムが小惑星のミスルトゥに寄ると、ギンガナム隊のマヒローが挑発してくるので、ロランがギンガナム隊を「やっていることはコヨーテと同じだ」と毒づくいたりも。
その後メリーベルの乗るバンディットが攻撃してくるため、ロランは∀ガンダムで応戦し、その際の動きで∀ガンダムのパイロットがムーンレイスだとメリーベルにバレるエピソートもあります。
このバンディットは初登場するコマで月をバックにしゃがんでいるようなポーズで、デザインも合わさって得体の知れなさが出ていました。
月についたウィルゲムは港に足止めされたため、ロランとソシエがディアナを連れて月側に黙って街に出ます。このとき地下を通るのですが、そこでハロの姿をしたバグが出てきました。
これは本作オリジナルの要素で、外見はハロそのものですが『機動戦士ガンダム F91』に出たバグの一種であるとディアナが2人に説明します。
このハロは殺傷能力だけでなく、ディアナが閉じた扉のロックを解除する機能を持っていました。
5巻
ギンガナムに捕らわれたキエルを救出し、ギンガナム艦隊を追い出すことはできましたが、戦力はギンガナム艦隊の方が上のためロランたちは月に足止めされます。
そのうえグエンが裏切りギンガナム側につき、月の資源運搬用マスドライバーも破壊され地球に向かう艦隊を止めることもできません。そこでハリーはカイラス・ギリを使うことをディアナに提案します。
カイラス・ギリはアニメにも登場しましたが、アニメではギンガナムが月に落下するミスルトゥを破壊して止めるために言葉だけ出てきました。
本作では黒歴史時代の地球圏防衛用ビーム砲であり、月を一周する運河の元になっていることに触れられ、ギンガナム艦隊を追うために∀ガンダムとゴールドスモーが長距離カタパルトとして使用します。
カタパルトとして使うための準備する場面もあり、そこで運河人のドナやハメットが少しだけ登場し、カプルでイルカを追い立てることをソシエが「牧羊犬にでもなった気分よ」とメシェーに話すエピソードもありました。
またリリやシドがグエンについて話すエピソードもあり、アニメではあまり出番のなかった2人を掘り下げもあります。
最後の戦いで∀ガンダムとターンXが月光蝶でお互いを拘束する流れはアニメと同じですが、本作ではギンガナムの死にロランは消息不明。そのためエピローグの描写もだいぶ違います。
戦いから2年たちフランは一児の母。メシェーは月の大学に留学しボーイフレンドもできますが、ソシエはギャバンへの返事を保留したまま。
アニメでは中盤に死亡したギャバンですが本作では最後まで生きており、月に向かうウィルゲムにも乗船しソシエにプロポーズしています。
プロポーズへの返事を保留するソシエをフランは『みんなが元の生活に戻ったり、新しい生き方を始めようとしているのにソシエだけがあの戦争に取り残されている』と口にしました。
本作にもロランが持っていた金魚のおもちゃをソシエが川に投げ捨てるエピソードはあり、ロランがディアナと一緒にいることを選んだアニメとソシエがロランへの折り合いをつけるための行為という点で同じですが、違う印象を受けるものとなっています。
ソシエが投げたおもちゃがどこかの海岸に漂着し、∀ガンダムのコアファイターにぶつかるというロランの生存を匂わせる場面で本作は終わりました。
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