天才と呼ばれた青年の遺書から始まる凡人と天才の友情と、天才の悩みや孤独を書いた本作の解説や感想を書いた記事です。
あらすじ
高校三年生の来光福音のもとへ届いたのは、自殺してしまった同級生からの手紙。彼の名は篠崎良哉。「天才」と名高く、見た目も人柄も完全無欠の男の子。彼の謎めいた遺書に導かれて、福音はもう一人の「天才」――人の心が読める女・加藤沙耶夏とともに行動を開始する。
Amazonより
本作について
『校舎五階の天才たち』は神宮司いずみさんによる小説で、講談社タイガから2017年9月に発売されました。
舞台は県内では上から5番目に位置する進学校で、主人公の福音を含めて良哉も沙耶夏もこの高校の生徒です。
物語は高校3年生の来光福音が、自殺した同級生からの遺書を受け取るところから始まります。その人物は同級生の篠崎良哉で、見た目も人柄もよく学業も優れており天才と呼ばれていました。
お願いがあります。僕を殺した犯人を見つけてください。
劇中より
僕は犯人の恨みを買ってしまい、追い詰められて死ぬことになりました。犯人は東高の人間です。もう一人、同じ手紙を受け取る子がいるので、彼女と一緒に捜してください。
この謎めいた遺書に導かれて、福音は天才と呼ばれ人の心が読める加藤沙耶夏とともに行動を開始することに。
自殺した天才・篠崎良哉からの手紙を受け取った来光福音と、人の心が読める天才・加藤沙耶夏が、篠崎の死の真相に迫ります。
福音は助手役で捜査を進めるのは沙耶夏であり、あらすじを読むとミステリーのように見えますが、ミステリーの要素は薄めでした。
天才である沙耶夏が様々な出来事や関係者の事情を類推することで話が進むため、謎を1つ1つ明かしていく流れにはならないからです。
それでは本作はどういった内容なのかというと、高校を舞台に天才をテーマにした群像劇といった内容でした。
本作は福音の一人称で進みますが、合間にルミネセンスというタイトルで他の登場人物の視点が入るのが群像劇らしさを強めます。
福音と沙耶夏は同じ遺書をきっかけに一緒に行動しますが、沙耶夏は自分が天才であるという自覚があり、周囲に馴染まず下に見て馴染もうとはしません。
その反面自分が天才でいられるのは今だけで20歳を過ぎたらただの人になると、自分に対して悲観的で周囲から浮いていることに悩んでいるものの、凡人に合わせるのは嫌だとも考えていました。
沙耶夏が福音を含めた周囲にうんざりしつつも、良哉の死の真相を調べることを投げ出そうとしないのは、自身の孤立した現状について悩んでいるためなのが劇中で指摘されます。
一方の福音は凡人であり沙耶夏に振り回されるのですが、それでも沙耶夏と関わり遺書の謎を解き明かすことを投げ出そうとはしません。
これは福音が過去に天才であるため周囲から浮いていた人物に対し、関わろうとしたけれど失敗した経験があるため。そのことを以前良哉に話していたことが遺書を受け取るきっかけになっています。
これは沙耶夏も同じで沙耶夏の悩みを知っていた良哉が、凡人と関わる機会を作り出すために沙耶夏にも遺書を送ったことが終盤明らかになりました。
このように本作はミステリー色は薄く、天才が周囲とどうやって接していくか(折り合いをつけていくか)が話の主軸に移っていきます。
福音は相手が天才であろうと関わり続ける立場を変えませんが、沙耶夏はどうするのかは最後まで曖昧なままです。
- 妥協して周囲の凡人に合わせていくのか。
- それとも自分に関わろうとする凡人だけと関わっていくのか。
話は綺麗に終わるものの沙耶夏がどうしていくのかには触れられず、真相が明らかになったところで終わってしまいます。
死の真相よりも天才たちの悩みに話の軸が移る内容であるため、「ここで終わるの?」と引っ掛かる部分はありました。
とはいえ話自体はテンポよく進み、登場人物の言動にも違和感はなく、読後感も悪いものではありません。
高校を舞台にした周囲に馴染めない天才というテーマは珍しく、天才と関わろうとする凡人と天才との友情の積み重ね方も丁寧でした。
あらすじやテーマに気になるところがあるなら手を取ってみてはいかがでしょうか?
まとめ
・自殺した天才の遺書をきっかけに、凡人が天才と協力して真相を明かすストーリー
・孤独などの天才の悩みが登場し、真相よりこちらの方が話の軸になっていく
・凡人と天才の距離が近くなり友人になる話は面白いものの、消化不良な点あり
こんな記事もあります
コメント